合成生物学を使ってJeans(ジーンズ)からGene(ジーン)に変貌、Dyadic(DYAI)株の分析

Dyadicは、赤字企業で、時価総額150Mドル程度。研究開発段階の会社です。

目次

企業概要

同社の特徴としては、真菌である Myceliophthora thermophilaを使ってタンパク質を作るプラットフォームを持っていることが挙げられます。

この真菌のニックネームをC1とし、プラットフォームはC1 Platformと呼ばれています。

このプラットフォームにより、抗原を使ったワクチン、抗体医薬を生産することを目指しています。

従来のバイオプロセスでは、例えば、抗体医薬品はCHO(チャイニーズハムスター細胞)を使って生産されています。

ここで、同社のC1を使うことで圧倒的に効率的、低コストで抗体医薬品を作ることが可能になると同社は主張しています。

例えば、コロナ禍において、リジェネロンの抗体カクテル療法などCovidに対する抗体医薬があまり使用されない理由として値段の高さが影響していると思います。

またタンパク質ベースのワクチンをCovidに適応するための大きなハードルは安価かつ高い生産速度が求められることであると考えられます。

同社のC1テクノロジーは、以上のような問題を解決できる唯一の方法であると同社は主張しています。

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From “Jeans to Genes”: Mark Emalfarb Thinks He Can Revolutionize Biopharma Manufacturing | BioSpace
From “Jeans to Genes”: Mark Emalfarb Thinks He Can Revolutionize Biopharma Manufacturing | BioSpaceMark Emalfarb, founder, chairman and chief executive officer of Jupiter, Florida-based Dyadic International, believes he knows how to revolutionize biopharma ma...

もともと、同社はジーパンを古着風にするための石をリーバイスなどに販売していました。

1979年に現CEOにより創業。

1990年ごろには、石ではなく、酵素( cellulase)を使ってジーパンを古着風にするのが主流になりつつありました。

そこで、同CEOは上の記事によるとロシアから35人の技術者を呼び、Myceliophthora thermophilaと出会うことになります。

これを合成生物学の手法で遺伝子改良を行い、初期のC1を確立。

cellulaseをC1により合成できるようになったとのことです。

そこからC1は20年ほど改良を加えられ、2015年ごろには、産業用のC1系統と医薬品向けのC1系統の二つの系統が育ちます。

そこで、会社にとって大きな転機が訪れました。

産業用向けのC1プラットフォームをケミカル大手のDupontが75Mで買収することになりました。

産業向けはおそらくバイオ燃料などを生産する用途であると考えられます(現在も生きているかは不明)。

医薬品向けが会社に残された状態になり2015年以降、同社は医薬品向けにC1プラットフォーム事業を続けています。

以下株価推移です。

2018年以降株価が大きく上昇しています。

これは2018年に大手医薬品会社のSanofiと共同研究プロジェクトを開始したためであると考えられます。

Sanofiサイドは同社のC1プラットフォームを使って7つの候補物質を効率的に生産できないかと同社に投げかけたようです。

すでに結果は出ており、7個中4つの物質で満たすべき効率性以上の結果が示せたとしています。

ただ、足元音沙汰がないようです。

万が一、治験に進めばポジティブサプライズでしょう。

足元、継続的な売上はなし

同社は研究開発段階の会社で、継続的な売上はありません。

しかし、顧客との研究開発を複数走らせており、そのための補助金を顧客から受領していることから売上はゼロではないです。

同社の売上が本格的に立ってくるためには、C1プラットフォームにより何らかの医薬品が生産される必要があります。

考えられる要素としては以下です。

  • 動物向けワクチン、抗体
  • ヒト向けワクチン、抗体での新薬
  • バイオシミラー・バイオベター

このどれかを生産するために同社のプラットフォームが使われればいいというわけです。

なお、既存の抗体を生産するバイオリアクターにこのC1と呼ばれる菌種を入れることですぐに生産が可能であるそうです。

そのため、製造プロセスに入り込むハードルとしては、できた成分が安全かつ効果があるかという点のみ。

ヒト向けはハードル高い、動物向けは希望はあるか

同社のプラットフォームにより既存のバイオプロセスを置き換えることができれば、株価は100倍以上になってもおかしくないと思います。

ただし、現在の時価総額は150Mドル程度という現実からわかるようにそれを期待するにはまだまだ道のりは長そうです。

ヒト向けはハードルが高いため、動物向けで採用されればまずは十分なのではと感じます。

動物向けでは、Zoetisなど業界大手5社と共同研究をしている他、欧州のZAPIという研究機関と共同研究を行っています。

ZAPIに関しては、2015年から共同研究をしており、Schmallenberg Virus(SBV)という家畜のウイルスに対するワクチンをC1で製造するための研究が行われています。

上の図にあるように、Baculovirusを使った方法で、300倍以上の効率で生産できたとのこと。

ヒト向けは中国やインドのリープフロッグ狙いか

同社はヒト向けのプロジェクトとして、上に書いたSanofiに加え、中国のWUXIなどとプロジェクトを組んでいます。

先進国のバイオプロセスに採用されるのはハードルが高いと思いますので、WUXIなど中国の先進的企業が採用する可能性の方が高いかなと思います。

またもしコロナ向けでタンパク質のワクチンが承認され、既存のmRNAワクチンよりも高い安全性と似たような効果があるとわかれば注目されるかもしれません。

製造の問題に対処するために同社の技術への関心が急激に高まる可能性が高いためです。

結論としては、投資適格かギリギリのレベル

以下私が投資家として疑問に思った点について補足しようと思います。

資金繰り

今後売上が本格的に立ってくる見通しは現時点ではありません。

ただし、Dupontのおかげで手元流動性が30Mドル程度あり、年間5M程度のキャッシュ流出傾向とすると、5-6年は何もなくても耐えれそうです。

従業員9人って大丈夫?

手元のデータによると従業員は9人となっています。

マネジメントだけで4人とすると非常にリーンな体制です。

営業はCEOがやるとして、研究開発は大丈夫なのか?という疑問を持ち10Kを読んでみました。

10Kによると、研究開発に関してはフィンランドのVTTという研究受託機関に任せているようです。

ポジティブかどうかは置いておいて、アセットライトな体制で、詐欺というわけではなさそうです。

また研究開発に関しては加えて、共同研究相手も利用しているので、まあ大丈夫だろうと思いました。

自社の研究は何をしているのかということですが、C1プラットフォームにより抗体を作るために必要な研究を中心にやっているようです。

人間で使われる抗体医薬には糖鎖が付加されており、この糖鎖が適切につくのがCHOなので、CHOが使われています。

この糖鎖を付けることがハードルになって真核生物ではない大腸菌などは生産プラットフォームに使えないということのようです。

C1は真核生物なので、糖鎖を付けることができるのですが、技術的にはあと一歩と同社は説明しています。

CEOが株を30%持っているのはポジティブ

この手の会社の一番のリスクは株券製造機に成り下がってしまうことであると考えられます。

同社のCEOはこの点を強く否定しており、理由として30%の株を同氏が持っていることを挙げています。

そのため安易に増資に走ることはないとコメント。

C1により既存のバイオプロセスを一変させるという高い理念を持っていますが、創業者が希望を持って取り組んでいるのでもしかしたら達成するかもと思わせる部分があります。

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