半導体の微細化技術を使った細胞解析でゲームチェンジを狙うBerkeley lightsをわかりやすく分析します。
どんな会社か?
2011年に創業。2020年に上場したばかりの会社で、時価総額は5000億円程度。
Igor(元ボードメンバー), Williamらが創業し、2013年入社のEric氏が2017年からCEO。
バリュエーションは高く、期待されている企業です。

このようなBeaconと呼ばれる機器を販売する会社です。
何が画期的か?
細胞一つ一つを小さなチップ上で、培養、解析(アッセイ)できることです。
チップ上には、nanopenと呼ばれる数1000の区画があり、それ一つ一つに一つの細胞を格納して培養します。
通常実験レベルでは、100個くらいの穴が開いているプレートを使って細胞を培養しますが、その10万倍くらい小さな区画だそうです。

※細胞はLEDの光を当てることで電子の流れを作り、部屋に誘導します。
何に使えるのか?
このデバイスでできるのは、細胞の選別と、アッセイ(解析)までを超微細環境でできることです。
細胞をフラスコで培養し、試薬を入れ、反応を調べるのと本質的には変わりません。
ただし、それを超ミニチュアレベルで自動化しているのが画期的な点です。
圧倒的な効率化が図れるようです。
以下アプリケーションごとに説明します。
抗体医薬のスクリーニング
抗体は抗原に反応することで医薬品として使われます。
その候補を探すのに使われます。
抗体を産生するのはB細胞と呼ばれる細胞ですが、どれが目的の抗体を作るかわかりません。
そこで、同社のデバイスに様々なB細胞を入れ、一つ一つその活性を調べます。
抗原とうまく結びついた抗体を産生するB細胞がわかりますので、それをデバイスから取り出します。
これにより、狙った抗体を獲得できます。
従来のハイブリドーマとそこまで原理自体は違わないのですが、めちゃくちゃ細かいレベルでやるので圧倒的に効率的ということです。
実績としては、コロナに罹った患者の血清からわずか1日で高活性な抗体を特定できたそうです。
従来の方法だと少なくとも2か月くらいはかかるのですが、圧倒的に効率がいいことがわかります。
がん向けT細胞療法の開発
最近CAR-Tと呼ばれるT細胞を使った療法が注目されています。
これは患者さんのT細胞を取り出して、それを遺伝的に改変し、また戻すという療法です。
一方で、T細胞には元々大きなばらつきがあり、またそれが副作用につながることがあります。
そのため、T細胞の個々の特性を理解する必要がありますが、それを効率的に行うデバイスがありませんでした。
このデバイスにT細胞を一つ一つ格納し、がんへの攻撃力やサイトカイン放出量(副作用などにつながる)などの特性を調べることができます。
そして良好な特性を持つT細胞がわかれば、それ一つだけをもとに戻し、それだけを培養することができます。
細胞を使った医薬品の生産
細胞を工場として医薬品を製造する製造業者にとって、細胞のばらつきは大きな問題になります。
同社のデバイスにより、イールドが高い(生産性が高い)細胞を選別できれば、大きなコスト削減になります。
合成生物学
合成生物学を使った製品開発に取り組んでいる会社で日本で有名なのはスパイバーでしょう。
人工的にクモの糸を作り、何かに使えないかなどいろいろやっているそうです。
合成生物学は、ざっくり説明すると、遺伝子を原始的な生物に人工的に導入し、何らかの化合物を合成することを目指す学問です。
酵母などに遺伝子を導入し、例えばクモの糸と同じタンパク質を作れないかなどを模索しています。
ただし当然失敗することも多く、膨大な数の試行錯誤が必要です。
様々な遺伝子を入れた膨大な細胞群をひとつひとつ評価するのは非常に骨の折れる作業です。
そこで、同社のデバイスを使えば、一つ一つミニチュア環境で解析できるので非常に便利です。
まとめ
細胞培養と、培養した後の解析、観察というプロセスは生物学の基本です。
同社の技術はそれを超ミニチュア環境でやることで効率化を目指すものと解釈できそうです。
ということは、従来の試薬や実験プロセスを流用できるため、思ったよりも適応範囲は広そうです。
半導体の進化と同じで、原理は変わらないが、それが効率的になることで生まれるイノベーションの大きさは実感できますので、おもしろそうです。
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