アルナイラム(ALNY)株についてわかりやすく分析【Alnylam】

核酸医薬は面白そうという記事を書きましたが(米国バイオ:次の10年は、核酸医薬が面白いと思うので、わかりやすく。関連銘柄についても。)、そこで触れていたsiRNAを使ったRNA干渉薬を開発するAlnylam(ALNY)という会社についてより深く、かつわかりやすく分析します。

目次

どんな会社か?

前回の記事の繰り返しになりますが、Alnylamは核酸医薬の中で、有望とみられるRNA干渉の分野のトップ企業です。

RNA干渉とは、もともと線虫で発見された仕組みです。

タンパク質はmRNAという設計図から作られますが、この設計図を破壊する仕組みです。

この現象はウイルスなどに対抗するために備わっているのではないかと考えられています。

なぜ同社がトップ企業に君臨しているかというと、このRNA干渉を引き起こすカギとなる物質の発見、それを化学的に合成する方法までの基礎特許を保有しているためです。

同社の共同創業者であるTushl氏が線虫で発見されたこの現象が、人間にも備わっていることを発見し、またそれを引き起こす物質と合成方法を開発しました。

この物質のことをsiRNAと呼んでおり、同社はこのsiRNAに関する基礎技術を持っていることが土台になっています。

そのため、最初にスタートダッシュを切れたことが、現在の優位性を生んでいると考えています。

創業から15年近く新薬が出なかった理由

同社は2002年に創業しました。

ノーベル賞レベルのサイエンスに基づいた創業であったことや、ボードメンバーにノーベル賞を受賞したフィリップシャープなどが入っていたことから、注目を集めた創業であったようです。

一方で、2018年に最初の上市薬であるOnpattroが認可されるまで15年近くかかっています

Onpattro(patisiran)はRNA干渉を使った薬として世界初の上市薬です。

しかし、何でこんなに時間がかかったのでしょうか

ドラッグデリバリーに難があった。 

最大の理由はドラッグデリバリーに難があったことです。

体外での試験管レベルの実験ではうまくいくが、実際に動物に導入すると上手くいかない

薬効成分であるsiRNAは即座に体内で分解されてしまうという欠点がありました。

そのため、狙った臓器に届けられるドラッグデリバリーシステム(DDS)の確立が必要でした。

そのため、同社は様々な投資を行い、その確立に成功しました。

成功につながった投資は、

1.Arbutus (ABUS US)からのライセンス供与

2.SIRNA社の買収(競合で、経営難に陥った)

1.は脂肪により薬効物質であるsiRNAを包んで体内にとどまりやすくなる技術で、これは最初の上市薬であるOnpattro(patisiran)に使われています

2.はGalNAcと呼ばれる糖の鎖をsiRNAにつなげる技術で、現在は、この技術に改良を加えた第三世代のGalNAc技術が同社の主力になっています。

今後の成長要因

今後の成長機会を後期パイプライン、アーリーステージのパイプラインの二つの視点で分析したいと思います。

まず後期パイプライン

現在上市している薬はライセンス先も含めて4つありますが、今後の株価を動かすものとしてフェーズ3のもの中心に書いていきます。

上の4つがフェーズ3のプロジェクトです。

ここで特に注目されているのは、①Onpattro(Patisiran)の用途拡大と②Vutrisiranです。

①に関して、現在Onpattro(Patisiran)は、現在神経性のATTRという症例向けに認可されています。

これが用途拡大により心筋性のATTRへの拡大が見込まれています。

これによりどれくらい市場が拡大するかというと、会社発表に基づくと現在の5倍のサイズの市場が対象になってきます。

カタリスト::2022中頃にOnpattro、心筋性ATTR向けトップライン開示予定(2021/1時点筆者予想)

②Vutrisiranは上市しているOnpattroと狙う症例は同じですが、ドラッグデリバリーシステムが異なります

VutrisiranはGalNAcというデリバリーシステムを使うことで、より少ない容量、皮下注射(vs静脈注射)、三か月に一回の注射(vs 3週間に一回)というメリットを狙っています。

なおVutrisiranが使っているデリバリーシステムは第二世代のもので、テクノロジー自体は第三世代まで開発されています。

第一世代と第二世代の違いは、より低用量ですむようになったこと。

低用量で済むことのメリットはオフターゲットリスクを低下させることにあります。

第三世代のものは、そのリスクを別の方法でさらに低下させたもので、現在アーリーステージのものに採用されています。

カタリスト::2022後半にVutrisiran、心筋性ATTR向けInterim発表可能性(2021/1時点筆者予想)

アーリーステージ 

上の図は、会社がフェーズ1、2として進めているものになります。

後期のパイプラインとの大きな違いは、NASHや高血圧など、より市場規模の大きい症例が対象になっていることです。

これらが認可されれば、これまでの希少疾患特化というイメージから、より広範囲で使用されるテクノロジーとしての評価が高まるでしょう。

NASHについて 

NASHは肝臓にたまる脂肪などが原因で最終的には肝硬変になってしまう怖い病気ですが、副作用とベネフィットの観点から既存の薬で優れた薬はないと会社は判断しています。

同社はNASHの原因となる二つの遺伝子を同定しており、勝機を見出しているようです。

高血圧について 

高血圧に関しては、NASHと異なり、多くの競合薬が出回っています。

これに対しては、RNA干渉薬のもう一つの特徴である効き目の長さで勝負するようです。

半年に一回の皮下注射で血圧を下げることができれば、高血圧の薬で問題となっているのみ忘れによる症状悪化を防ぐことができます。

アーリーステージよりも前も実はおもしろい(動物実験段階等)

上の図には載っていないですが、会社は投資家向け説明会などで動物実験段階等のパイプラインを説明しています。

そのパイプラインは20程度あるようです。

大きな違いは狙う組織が異なること。

これまでは、届きやすさという観点から肝臓メインでの創薬が行われてきました。

しかし近年の技術発展により、脳などの神経系、目、肺などもターゲットになり、これらの組織をターゲットにしたプロジェクトが多く進んでいます。

これらは近年大きく進展したものですが、背景には大手バイオテクノロジー会社のRegeneron(RGEN US)との2019年の提携発表があります。

Alnylamは動物実験レベルで神経系や目での遺伝子発現を抑えることができたと従来から発表していましたが、これにRegeneronが目を付けたようです。

Regeneronは神経系で長く創薬をやってきた会社で、会社のカルチャーは上から下までサイエンスの会社です。

そのため、この領域で遺伝子のメカニズムなどを知りつくしていました。

一方で、Alnylamはその遺伝子の発現を制御するユニークな技術を持っていたことからRegeneronのアイディアを具現化するために必須の存在であったのではないかと推察します。

競合と何が違うのか?

競合としては、核酸医薬の中での他の技術であるアンチセンス、ゲノム編集などの他のテクノロジー、同じカテゴリー内の競合があります。

同じカテゴリー、RNA干渉の中での競合については、二種類あります。

同社と同じ基礎技術を使った競合と、違う技術を使った競合です。

この技術とは、RNA干渉を引き起こす技術のことですが、後者は現時点ではうまくいっていません。

前者の競合としてはArrowhead(ARWR US)という強敵が存在します。

彼らが何で同社と同じ基礎技術にアクセスできるかというと、同社がライセンスを間接的に供与したためです。

一番大きかったのが、同社がノバルティスに与えていたサブライセンスをArrowheadが買ったことでしょう。

ノバルティスには、30の遺伝子に対する創薬活動を独占的に行える権利を売っていました

これを競合が買ったことで、基礎技術へのアクセスが可能になったようです。

ゲノム編集との競合

ゲノム編集薬は、遺伝子発現をノックアウト・ノックダウンさせることができるとみられ、同社の競合になります。

ゲノム編集での競合はNTLA(Intellia)が挙げられます。

2021年度中に神経性ATTR向けにフェーズ1がスタートする見込み。

現在の市場見通しとして、2025-2026年にうまくいけば上市されるのではという見方です。

一回投与で治る効果が発揮されれば、市場シェアは2030年に30%程度に達するのではと予想されています。

フェーズ3までこなす時間と、すくなくともゲノム編集のリスクを見るために最初の患者への投与から5年程度は経過観察したいのではという見方があります。

なおAlnylamのOnpattroは2011年にフェーズ1が始まってから、2018年に上市されるまで7年たっています。

Alnylamの次世代製品であるVutrisiranとの競合に関しては、自身はゲノム編集薬がリスクと引き換えに何のメリットが示せるかわからないとしています。

理由として、

  • 今後の治験によって一年に二回、麻酔なしの皮下注射で済むようになれば、十分。
  • 効果は変わらない

という趣旨のコメントをカンファレンスコールにおいて、CEOが発言しています。

特許関連、リスクなど 

特許に関しては、2021年3月にTushl 2と呼ばれる基礎特許が失効する見込みになっています。

正直なところ、これが与える影響は私にはわかりません。

既存のパイプラインや研究中のものに関しては物質特許を押さえているので大丈夫そうです。

ただ全くの新規siRNAに関しては誰でも開発に取り組むことができるようになると思います。

ただし、Regeneronとの提携など、対象領域の新規発見のノウハウは引き続き競争優位を判断する上でのポイントになりそうです。

また、これからはドラッグデリバリーシステムがいかに優れているかで勝負する時代になるのかなと思っています。

目先カタリスト(2021/1/8更新)

日付製品イベントコメント
2021/Q1Inclisiran米国承認2020/12 CRL
2021/ EarlyVutirisiranトップライン2021/1 無事クリア
2021/ EarlyFitusiranPivotal P3 データ
2021/ LateVutrisiranHellios A P3 18 month心筋関連データ注目
2022/midOnpattroAPPOLLO Bトップライン
2022/lateVutrisiranHellios B P3 中間解析

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