四半期決算直後は、株価も大きく変動します。
今回は、市場のアナリストがどこに注目しているのか、またその調べ方、見方について中心に書いていきたいと思います。
四半期決算の情報源
四半期決算の分析には、以下の情報源が活用できます。
- プレスリリース(8K)
- 10Q、
- 決算説明会プレゼン資料、決算説明会議事録

プレスリリースは、重要な数値やCEOのコメントなど、コンパクトにまとまっており、最初に確認するものとしておすすめです。
10Qは10K(米国株の調べ方:米国個別株分析で先ず目を通すべき10Kとは?)の親戚で、日本でいうところの決算短信です。
より詳しいバランスシートなどの情報が欲しければ見る感じでいいでしょう。
ただし、10Qは詳しい分、すこし時間が遅れて開示されることが多いです。
決算説明会関連の資料では、プレゼンと説明会のトランスクリプト(議事録)があり、数字の背景を深堀できます。
決算関連資料の入手方法
プレスリリースは、企業のIRページで見つけるか、Webで検索。
決算説明会の議事録は無料の米国情報サイトなどにおいてあります。
決算説明会議事録をインターネットで入手するためには、ティッカー名とEarnings call scriptと検索するといいでしょう。
四半期決算のどこに注目するか?
四半期決算では、売上および利益関連の数値とその背景を見ていきます。
数値に関する情報はプレスリリースでほぼ確認できますが、一部決算説明会のトランスクリプト(議事録)で開示される情報もあります。
また数値の背景など定性的な情報を確認するためには、決算説明会のトランスクリプトは有用です。

以下では、株価に影響を与える、売上・利益関連の数値の見方について書いていきます。
売上・利益関連の数値
売上・利益関連の数値で確認すべきなのは以下の5点です。
- 四半期売上成長率
- 四半期利益成長率
- 四半期売上、利益が市場予想を上回ったか
- 次期四半期の売上・利益見通し
- 通期売上・利益見通しの上方・下方修正の有無
①四半期売上成長率
四半期の売上成長率の前年同期比(yoy)と、前四半期比(qoq)を確認します。
これらをトップライン関連の数値と呼んだりします。
売上成長を見る際、重要なのは、本業ベースでどれくらい伸びているかという点です。
というのも、米国企業はM&Aをよくやるので、M&Aによる伸びを除いたベースの伸びを確認する必要があります。
M&Aを除いたベースの売上成長をOrganic growthと呼び、M&Aをよくやる企業はこの数値を開示しています。
また、輸出系企業は為替の変動を除いたベースの売上成長を開示しています。
これは、Constant currency やCurrency neutral の数値と呼ばれます。
なお米国では売上の数字の方が重視されやすいです。
売上は利益の源泉ですし、売上が伸びれば収益性の改善も期待でき、売上の伸び以上に利益が伸びます。
また売上が成長しないなかでコストカットにより利益を出すことは限度がありますし、評価されづらいです。

以下、やや注意が必要な業界のトップラインの見方です。
小売系企業のトップラインの見方
小売系企業のOrganic growthに相当するのが、既存店成長です。
既存店成長のことを米国ではComp growthと呼びます。これはComparableの略ですが、既存店成長のことです。
決算説明会でコンプがどうかばかり話していて、意味がわからず、最初は面食らった記憶があります。
既存店成長が何で重視されるかというと、収益性改善の直結するためです。
出店による売上成長は、利益にすぐに直結しないことが多いです。
そのため、小売企業のトップラインを評価する上では、Comp growthが重要視されます。
IT(ソフトウェア、Saas)企業のトップラインの見方
Saasの会社の場合、トップラインで注目される数字にARR(annual recurring revenue)があります。
ARRを日本語に直訳すると、年間繰り返し売上となります。
繰り返しの性質を持つ売上として、サブスクリプションの売上を含み、単発の売上は含めません。
月間当たりの繰り返し売上に12をかけ、年ベースにしたものです。
売上(revenue)との違いは、まだ売上認識していない、今後どれくらい売上が見込めるかを把握できる点にあります。
そのため、売上の先行指標的な指標として注目されます。
なお似たような指標として、ACV(annual contract value)があります。
これは、年間契約高というもので、契約ベースの数値です。
そのため、ACVはARRに先行する指標です。
例えば、3年契約で計3億ドルの契約を勝ち取ったとすると、ACVは1億ドル計上されます。
②四半期利益成長率
利益成長に関しては、Adjusted EPS (Non-GAAP EPSとも言う)ベースの成長率が最も重視されます。
Adjusted EPSは調整後EPSという意味で、Non-GAAP EPSもGAAP(米国会計)に基づかないEPSという意味で同じ意味です。
何を調整しているかというと、企業によってさまざまではあるのですが、ざっくりと買収費用や、リストラ費用、訴訟費用、あと重要なのが株式の希薄化と株式報酬費用です。
これらをなかったことにして、利益として開示します。
IT関連企業の決算を見ていて、Adjusted EPSが普通のEPSの数字と大きく乖離していることがあります。
Adjusted EPSで黒字で、EPSでは赤字など。
この場合多くのケースで、株式報酬費用が原因となっています。
テクノロジー企業の多くは、エンジニアなどの給与を株式で払っています(余談ですが、そのため株価は非常に重要なのですね)。
米国会計基準(GAAP基準)のEPSにはこの株式報酬をコストとして認識するため、その分マイナス要因になります。
一方で、この株式報酬は株式の希薄化によるEPSの押し下げ要因にはなるものの、キャッシュフローには影響しません。
そのため、これを利益の押し下げ要因として見なさず控除してEPSを計算します。
そのためこのように調整されたAdjusted EPSは実際のEPSよりもかなり高くなります。
普通の機関投資家やセルサイドアナリストはどう評価しているかというと、Adjusted EPSで見ています。
企業サイドも、例えば今期中にNon-GAAPベースでの黒字化を目指すとコメントするなど、重要なKPIとして置いている企業が多いです。
ちなみに最後に重要な点ですが、調整が妥当であるかを考える必要があるという点です。
調整後EPSはいいのに株価が暴落しているケースなどは、その調整はおかしいだろうと市場が見ていることになります。

Non-GAAPとGAAP(非米国会計基準と米国会計基準)の対比、何を調整したのかを開示しているのでそこを念のため確認してみてください。
これは決算プレゼン資料の後ろの方のappendixに乗っていることが多いです。
利益を見るうえでのその他注意点
実は米国会計の営業利益(Operating income)は日本会計の営業利益と異なります。
米国会計のOperating incomeは特損など一時的に出てしまった損失などが含まれます。
そのためビジネスの動向を見るうえではミスリードになってしまうケースがあります。
ですので、日本株の感覚であれば、決算で営業利益を最初に見るのが普通ですが、米国株の場合営業利益はあまり見ません。
Diluted EPSというのもある
ちなみにEPS関連の単語では、Diluted EPSというのもあります。
これはオプションなどで潜在的に増える株式をEPSの計算上考慮したものです。
そのため投資指標としてはEPSよりもDiluted EPSを使うのが普通です。
利益率関連の用語
利益率関連のKPIには、粗利益率と、営業利益率があります。
粗利益率はGross margin、営業利益率はOperating margin。
粗利益を出すのに使う売上原価はCost of goods、通称Cogs、コグス。
営業利益率を出すために使う販管費はSG&Aと呼びます。

トップライン→Cost of goods、SG&Aの変動を見て、結果、利益がどう変化したかが理解できます。
③四半期売上、利益が市場予想を上回ったか
四半期の数字が市場予想を上回ったかどうかも重視されます。
よく、Beatという単語が出てくると思います。
Beat on EPSというのは、EPSが市場予想を上回ったということです。
※通常このEPSは調整後のものが使用されているのが普通ですが、確認が必要。
市場予想は大手証券会社のアナリストの予想平均が使われています。
ビートしたかどうかは、seeking alphaなどの無料株式サイトをチェックすると確認できます。
ちなみに、利益に関しては、市場予想を会社実績が上回った比率、いわゆるビート率は市場全体で70%を超えるのが普通になっています。
そのためビートしたからといってもそれが普通なのであまり反応しないときも多いです。
しかし、市場予想を下回る(ミスる)と下げる傾向が多いように見えます。
④次期四半期の売上・利益見通し
終わった期の数字が良好であっても、見通しがどうかという点も非常に注目度が高いため、確認が重要です。
多くの企業が四半期決算発表時点に次の四半期の売上・利益の見通しを出してきます。
プレスリリースもしくは、決算説明会でコメントがありますので、確認できます。
⑤通期売上・利益見通しの上方・下方修正の有無
通期のガイダンスがすでに発表されている場合は、その数値目標に修正があるかどうかを確認します。
これに関してもプレスリリースもしくは、決算説明会で確認します。
また、決算説明会では、ガイダンスの背景や経済状況の前提などがコメントされ、それが保守的なのか、それとも楽観的なのかをアナリストは読み取ろうとします。
これらのやりとりも決算説明会の議事録から確認できます。
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